消灯時間
1486 106
勝手に灯りを消したのは誰?
まだ僕は眠たくないのに
電気を点けたようにもスイッチに手が届かない
時計の音だけが響いていた
★
辺りはすっかり静まり返っていて
月の光も雲に隠れてしまって
普段考えないようなことが頭を過る
別れた恋人の近況だとか
トイレの模様替えの方法だとか
人間の存在意義や存在意識
答えを出せないことに悩んだり
答えを出せないことに安心したりしていた
★★
0と無限はこの上ない苦痛という点に於いて似ている。
★★★
子どもの頃読み聞かされた物語を
一字一句違わずに暗唱してみた
憧れていたハッピーエンディングが
すべてフィクションだったと知ったのは
三つ目の会社を辞めた日のこと
★★★★
どんな慣用句を並べたって
結局のところ人は皆孤独なんだって
いつの間にか目が慣れた暗闇の中で実感してしまった
こんな時一番に電話したくなった相手を
親友、とでも呼ぶべきなのかな
★★★★★
テレビのチャンネルは全部砂嵐
昼間見た映像も同じだったかもしれない
誰かが作り上げたイメージに
思惑通りの色を塗り重ねてる
悲しい、とか腹立たしい、とか死ねばいい、とか
石ころも動かせないほどの感情で
★★★★★★
梟の鳴き声は子守歌に聞こえるけど
夜行性の鳥達にとってはマーチなのかもしれない
地球の裏側 ブラジルは真っ昼間で
カーニバルの真っ最中だとか
名前も知らないような国の戦争だとか
力尽きた旅人の超えられなかった夜
★★★★★★★
早く明日にならないかな
そう思ったのは遠足前夜
明日なんて来なければいい
そう思ったのは卒業前夜
懐かしい日々はかつて未来と呼んでいた場所
今、という瞬間さえ使い果たしてしまったとしても
修学旅行の夜に語り合った内緒話だけは
ずっと覚えていたいのになぁ
やっぱり忘れてしまうのかなぁ
★★★★★★★★
時計の音はいつの間にか聞こえなくなっていた
★★★★★★★★★
翌日
ごく一部の人間と僕
だけを除いて平等に朝日は降り注ぐ
飾られた額縁と献花台の前で
誰かが悲しみ誰かが喜んでいるんだろう
どうせなら記憶よりも記録に残りたいけど
僕がいないならどっちだって同じかな