消灯時間
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勝手に灯りを消したのは誰?
まだ僕は眠たくないのに
電気を点けたようにもスイッチに手が届かない
時計の音だけが響いていた





辺りはすっかり静まり返っていて
月の光も雲に隠れてしまって
普段考えないようなことが頭を過る
別れた恋人の近況だとか
トイレの模様替えの方法だとか
人間の存在意義や存在意識

答えを出せないことに悩んだり
答えを出せないことに安心したりしていた


★★


0と無限はこの上ない苦痛という点に於いて似ている。


★★★


子どもの頃読み聞かされた物語を
一字一句違わずに暗唱してみた
憧れていたハッピーエンディングが
すべてフィクションだったと知ったのは
三つ目の会社を辞めた日のこと


★★★★


どんな慣用句を並べたって
結局のところ人は皆孤独なんだって
いつの間にか目が慣れた暗闇の中で実感してしまった
こんな時一番に電話したくなった相手を
親友、とでも呼ぶべきなのかな


★★★★★


テレビのチャンネルは全部砂嵐
昼間見た映像も同じだったかもしれない
誰かが作り上げたイメージに
思惑通りの色を塗り重ねてる
悲しい、とか腹立たしい、とか死ねばいい、とか
石ころも動かせないほどの感情で


★★★★★★


梟の鳴き声は子守歌に聞こえるけど
夜行性の鳥達にとってはマーチなのかもしれない
地球の裏側 ブラジルは真っ昼間で
カーニバルの真っ最中だとか
名前も知らないような国の戦争だとか
力尽きた旅人の超えられなかった夜


★★★★★★★


早く明日にならないかな
そう思ったのは遠足前夜
明日なんて来なければいい
そう思ったのは卒業前夜

懐かしい日々はかつて未来と呼んでいた場所
今、という瞬間さえ使い果たしてしまったとしても
修学旅行の夜に語り合った内緒話だけは

ずっと覚えていたいのになぁ

やっぱり忘れてしまうのかなぁ


★★★★★★★★


時計の音はいつの間にか聞こえなくなっていた


★★★★★★★★★


翌日

ごく一部の人間と僕
だけを除いて平等に朝日は降り注ぐ
飾られた額縁と献花台の前で
誰かが悲しみ誰かが喜んでいるんだろう
どうせなら記憶よりも記録に残りたいけど
僕がいないならどっちだって同じかな


自由詩 消灯時間 Copyright 1486 106 2008-11-08 22:02:05
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