眠り姫の冬の朝
緋月 衣瑠香

気がつけば
柔らかな布団が体を包みこんでいる朝
遠くから聞こえる踏み切りの音
肌寒い朝の目覚めは私を憂鬱にさせる

嫌なことを思い出させる季節、冬
雪の如く心に降り積もり熱を奪っていく思い出に
再び目を閉じたくなる

未だ布団と一緒に包まっている
ありがとう、好きでしたの言葉達
面として伝えられない自分に苛立ちを覚える

でもその言葉は本心
あなたが支えてくれたから私がいる
ありがとうなんて言葉じゃ言い表しつくせないぐらいの感謝をしてる
そんなあなたの優しさが嬉しかった
あなたを強くつよく愛していた
でも私は愛することから逃げた
愛すること、愛されることに恐怖を感じたから


自分の醜さに泣いた
卑怯な自分に泣いた
あなたを傷つけたことに泣いた

気がつけば
柔らかな布団が体を包みこんでいる朝
近くから聞こえる鳥のさえずり
肌寒い冬の目覚めは私を憂鬱にさせる

あの夜から何百回もの朝を迎えているのに
もう過去のことになりはじめているのに
未だに冬の寒さは心を締め付ける

これ以上自分の汚さを知らないように
ずっと眠っていられたら
なんて考えたこともあった

でも今は違う
この布団と共にさよならを
そして新たに宿ったこの気持ちと向き合う勇気を

さあ 迎え入れよう
あの冷たい雪もあの日の涙も慣れない冬の朝も
暖かな布団から抜け出すのは案外簡単なのかもしれない

きっと今以上のものが見えてくるはずだから


自由詩 眠り姫の冬の朝 Copyright 緋月 衣瑠香 2008-11-08 11:16:05
notebook Home