しょーゆーこと
木屋 亞万

あなたの右膝から生まれました
膝小僧(右)です、身に覚えはありませんか
こんなに大きくなりましたよ
どの敷居でも頭を打つほどに成長しました
今回あなたに会いに来たのは生き別れた双子の兄弟
膝小僧(左)の手がかりを得るためだったのですが
僕を覚えていないようでは、可能性は薄そうですね
薄いのは髪の毛だけにしといて欲しいものですよ、まったく
髭もすね毛も濃いくせして、頭だけピカピカしやがって
お前のせいで膝頭だけツルツルであとボーボーじゃねえか
どうせなら膝頭ボーボーであとツルツルにして欲しかったわ
ちょっとは膝小僧として独立して暮らす者のことも考えて生やしやがれ
おっと、失礼いたしました、感動のあまり心の声が
とにかくですね、兄に会いたいんです
ねずみ小僧のところに弟子入りしたという噂など
聞いたことがあるような気がしませんか、しませんか、そうですか
北風小僧とか悪戯小僧とか、他は、何かあるかな
あぁ小便小僧とか、ね、
その後の消息について何も知らない?
ったく使えねえ親父だな、
結局何にも知らねえんじゃねえか

「おや、旦那、今日は膝小僧ですかい?
この間は北風小僧、
その前は小便小僧、
悪戯小僧が来てたときもあったじゃないですかい
本当に旦那も節操がないですな
咳をすれば北風小僧が生まれ、転べば膝小僧、小便すりゃあ小便小僧
出来心からは悪戯小僧がポンポン生まれ、
鼻水からは洟垂れ小僧まで生まれてきやがる
一日何人くらい生むんだってなもんで、
もはや立派な大家族じゃないですかい
人類初の無性生殖ってのも、そこまで良いもんには見えやしませんな
早く良い嫁さんもらって有性生殖に切り替えたらどうです
憂鬱の秋たぁ、よく言ったもんで、
巷の一人もんはみな寂しそうな顔してまっさあ
旦那が本気で声をかけりゃあ、猫の一匹でも振り返るってもんでさあ
ええ、ちょうど息のいい秋刀魚も揚がっておりますぜ
お安くしときますよ、どうです?
へへへ、まいどあり」

七輪がないから風鈴で秋刀魚を焼けだなんて
クソ親父も無茶を言いやがるな、まったく
自分は嫁探しだっつってどっか行っちまうし
そのまま逝っちまえば良いのになあ
だいたい膝小僧(右)が秋刀魚焼きゃあ、臍が茶でも沸かすんじゃねえの
そして何より秋刀魚の匂いで釣れる女なんかいねえよ
今どき猫でも釣られてこねえよ、
って来てるしさ
あ、はい、父ですか?ちょっと今出かけております
もうすぐ戻ると思います、はい、何せ苦手な女漁りですから
それにしても可笑しな髪型してますね、前髪しかないなんてね
何かそういう病気なんですか、薬の副作用とか、ストレスとか?
あ、そういうのじゃない
ちなみにご職業は?
え、女神?その髪型で、その顔で、女神っ!?
ははは、まあハゲ同士、仲良くしましょうよ
ね、前髪女神さん

それにしても、アレですよね
秋刀魚を食おうにも調味料がないって
いったい全体どういうことでしょうね


自由詩 しょーゆーこと Copyright 木屋 亞万 2008-11-07 01:12:26
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