時計と熱燗
うめバア

あなたはそば屋で待っていて
熱燗をちびちびやりながら

私を見るなり、ほっとしたような
困ったような

薄汚れたテレビの中で笑う
若いお笑い芸人たちの姿は
遠い、遠い、都会を思わせる

寒い寒いと思ったら
雪がちらついて来ちゃったね
駅は人がいっぱいだね

私は何をするわけでもなく
あなたの煙草の
けむりの行方を見ている

好きも嫌いも言えないし
喋りだしたらなにもかも
くだらない言い訳になりそうだから

とぼけたふりして、
時計と、あなたの手首を
かわりばんこに見ている

電車がなくなったら困るから
もう、帰らなくちゃね
そう、そろそろね

そば屋を出ると商店街は
クリスマスのイルミネーションが
やけに明るく、はしゃいでいて

それじゃ、と 振り上げた手の
指の先が、すっと、触れあったのは
そのことに気がついてしまったのは
きっと気のせいだ

別々の家に向かう、改札口を入ったら
雪は雨に変わり
私は何度も思い出す

煙草や熱燗、それに
あなたの手首や時計や指先や…

それじゃ、と言ったきり振り返らない
後ろ姿



自由詩 時計と熱燗 Copyright うめバア 2008-11-06 00:39:21
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