夜を噛む
木屋 亞万
建物を出ると驚くほど寒い
7時間ぶりの外の世界が
熱を帯びた脳を冷ます
薄曇りの空の中
提灯のように
月がぼんやりと光り
遠すぎる等間隔で
街灯が照らす田舎道
努力の底が見えない
怠ければ後悔すること
必至なのだが
半端な取り組みさえ
許されぬ気がする
人生は今、薄曇り
節目が多くて面倒だ
希望が、ぼんやりと提灯
家に帰っても眠るだけ
公園のベンチでひと休み
遊具がひとつもないので
ベンチの側の電灯を見る
次いで近くの自販機
暗闇の中ぼんやり明るい
手元には缶コーンスープ
あの自販機からもらった
コーンを噛む、噛む
飲む、あたたかい、噛む
吐く、息があたたかい
スチール缶に力を込める
缶の中身はもう泣いている
ぼんやりとした熱を残し
硬い缶の中で泣いている
缶をゴミ箱に投げる
缶の中から甘えた悲鳴
鼻から大きく息を吸う
冷たい、つめたい
吐く息はまだあたたかい
口から夜気を食う
冷たい、歯が冷え、噛む
歯ざわりは薄曇り
夜を噛む
甘えはいらない
温もりが提灯のよう