腐った果実の名前を呼んで
百瀬朝子

腐った果実の名前を呼んで
食べてあげることはもうできなくて
名前を呼ぶことくらいしかできないけれども
だから せめて
大きな声で

腐った果実の名前を呼んで
もぎたての頃を思い出す
真っ赤だった色はくすんだ茶色に
鮮やかな橙は明度をなくしカビを纏った

ぴかぴかに磨かれたステンレスに
取り残された果実たちに似て
世界の隅で 忘れられたあたしの影は泣くでしょう
ポロポロとこぼれる涙は塩辛い調味料
悲しみの隠し味
世界の隅から撒きました

腐った果実の名前を呼んで
忘れてないよと知らせてあげて
淋しくないよと囁くように
てのひらでそっと包んであげよう


自由詩 腐った果実の名前を呼んで Copyright 百瀬朝子 2008-11-03 17:43:45
notebook Home 戻る