無念の形
佐々木妖精

お前はしたい

腹を見せ
くたばっている蝉よ
日中に繰り広げた
小鳥とのマッチレースの果てがこれか
二度三度啄ばまれ
それでも振り切った翅が
今は夜露を積もらせる
たった数分の猛追で
数年の滋養を吸われたか
憔悴しきって
お前が電柱で鳴いていたように
お前の名前は知らないが
私も雄だ
お前は童貞
お前はしたい

せめて還るといい
産まれたところへ
腐りゆけ
子を残せなかった者もまた
物として育める
指先に残るあの人のように
見知らぬ子を育むといい

お前はしたい
もう誰も お前を追いはしない



詩と思想11月号 入選
そんなところにスペースはなかった


自由詩 無念の形 Copyright 佐々木妖精 2008-11-02 07:11:55
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