グリーンマフラー
udegeuneru

イチョウの木々をくぐりぬけ
暗く乾いた食堂に集まるのは
ヤクザ
インテリ
ろくでなし
ブンヤに
ニート
詩人
音楽家
革命家
小説家
etc.
彼らは互いに値踏みし合っている
俺は食堂にひとりぼっちだったけれど
それは俺に限ったことではなかった
ここにいる全員がそうだったのだ
ださいマフラーを巻いて孤独だった
今夜何かが起こるって噂を聞いて
ひとりぼっちでやってきたのだ

食堂の中央には丸いテーブルがあって
その上にライトツナ缶が山積みになっている
俺の横にいるやつは孤独に耐えきれず
ソファーに座ってツナ缶を食い続けている
他のやつらは様子を伺っているが
あわよくばツナを頂こうって魂胆がみえみえだ

しばらくしてどっかからアナウンスが流れた

「そこにあるツナ缶は食べるためじゃないです」

外国人が発音するような日本語だ

「今からみなさんがツナを体に塗りたくってください」

ほとんどの人が異常を察知し、空気が凍りつく
何でそんなことしなきゃなんねーんだ、と言う怒号が聞こえる
ざわつきの中、革命家の男が服を脱ぎだした
中央のテーブルに歩み寄りツナ缶を手に取った

「俺はやるぜ」

そういうと革命家はツナを塗り始めた
みるみるうちに革命家の体はツナまみれになる

「これは…気持ちいい!」

革命家は恍惚の表情を浮かべている

「こんなに気持ちいいのに、なぜみんなやらないんだ?」

油でぬらぬらと光る裸体に興奮した何人かが動き出した
服を脱ぎ、体にツナを塗りたくる

「ああっ!」
「お、おうぅ…」
「やばい」

そこからはもうほんとうに早いものであった
俺も我慢できずに全身にツナを塗りたくった
実際の話、最高に気持ちよかったのである

全員がツナにまみれていた
ただ一人をのぞいて
アナウンスの前にツナを食っていたやつである
なんとその男はまだツナを食っていたのだ!
明らかに目がおかしい
何かにとりつかれたようにツナを食い続けている
無意識のうちに俺は声をあげていた

「こいつは悪魔だ」

全員が男のほうをぎょろりと見た
革命家が叫ぶ

「殺せ!」

壮絶なリンチにより男は内臓破裂で死んだ

その後も俺たちはツナを体に塗りまくった
俺たちはツナによってひとつになったのだ
もはや孤独は死語に成り下がった
天使が降りて俺たちを祝福していた
俺の足もとには油に浸かったださいマフラーが
ぐちゃぐちゃに踏みけられていた






自由詩 グリーンマフラー Copyright udegeuneru 2008-11-01 21:57:52
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