平熱
木屋 亞万

血液は旅をする
一生の半分は心臓を目指し
残りの半分は心臓を懐かしむ
何周も何周もするのだから
何度も何度も繰り返すのだろう

プールの前に体温を計る
血液が今、何を思うのか
知るためなのだろう
直接聞けないから
脇に聞き耳を立てる

私の人生の半分は
布団からの旅立ちであり
残りの半分は
布団への憧憬である
体温計が鳴り
平熱38度5分を示す

プールが私を呼ぶ
水に入ると血液は笑う
小走りで毛細血管を行く
中指の先にタッチしては
暗い帰り道を抜けて
肺で息継ぎをする

さあ布団から旅立とう
掛け布団と敷布団の間の
微かな平熱を置き手紙にして

プールから出るまで
私は布団を想わない
暗い帰り道を抜けて
家にたどり着いたとしても
布団には冷たさしか
残っていないのだから


自由詩 平熱 Copyright 木屋 亞万 2008-10-30 22:53:54
notebook Home