あたりまえのこと。
きゃっとむーん大葉

朝は、
最寄りの駅まで走るための時間ではなく
ラジオから流れる落語の人情噺を聴きながら
渋い野菜茶をゆっくりと喉に通過させる。
そんな涙を流すための「ひととき」でありたい。
ぜいたくぜいたく。

昼は、
厭なことから逃れるために成人映画館へ逃げ込む時間ではなく
裏若者通りで野良のくせに愛されることを知っている動物の
お腹を思う存分なでながら手のひらを温める。
そんな笑みを浮かべるための「ひととき」でありたい。
ぜいたくぜいたく。

夕は、
感情を麻痺させながら内輪を罵倒する時間ではなく
釦を押すしかやりようが無い玩具の穴を覗きながら
あきらかに残すことの出来ない風景を切り取る。
そんな涙を流しながら笑みを浮かべるための「無意味なひととき」でありたい。

容赦なく一瞬は走り去り
背伸びをして筋肉を伸ばすことも困難になる。
無理無理無理無理。
そうしているうちに知識情報世間体に侵され
脳の中身は、誰かの頭。
流す涙も、浮かべる笑みも。

そうか。
「ぜいたく」は、別に「ぜいたく」な訳ではなかったのか。

もうすぐ夜が終わって朝が始まる。





自由詩 あたりまえのこと。 Copyright きゃっとむーん大葉 2008-10-29 19:40:53
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