空の匂い
たもつ

 
掌は舟
温かくて何も運べない
体液を体中に満たして
今日も生きているみたいだ
塞ぎようのない穴から
時々漏らしながら

階段に座って
ラブソングを歌ったり
駅前の露店で
プラスチックの蛙の玩具を買ったり
そんなことをしているうちに
年なんかとったりして

大切なことのいくつかは
父と母から教わった
そして大切なまま
いつか忘れた
死んでやる
そう言う人間にかぎって決して死なない
と知ってはいたけれど
本当に死んだときは
残酷なくらい自分への言い訳を探した

枕元で扇風機が回っていた夏
幸せ、とは
簡単な遊びだった
空の見えない窓から
空の匂いだけがしたこともあった



自由詩 空の匂い Copyright たもつ 2008-10-29 13:47:45
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