空の匂い
たもつ
掌は舟
温かくて何も運べない
体液を体中に満たして
今日も生きているみたいだ
塞ぎようのない穴から
時々漏らしながら
階段に座って
ラブソングを歌ったり
駅前の露店で
プラスチックの蛙の玩具を買ったり
そんなことをしているうちに
年なんかとったりして
大切なことのいくつかは
父と母から教わった
そして大切なまま
いつか忘れた
死んでやる
そう言う人間にかぎって決して死なない
と知ってはいたけれど
本当に死んだときは
残酷なくらい自分への言い訳を探した
枕元で扇風機が回っていた夏
幸せ、とは
簡単な遊びだった
空の見えない窓から
空の匂いだけがしたこともあった