水槽とブルーハワイと所有と幸福
青の詩人
ずっと気になっていた喫茶で
ブルーハワイを頼んだ
まるいグラスに注がれた液体が
一瞬で差し出された
ストローで青を吸い上げた
地球から北半球が消えてしまった
南へ行くほど薄くなっていった
最後には南極の氷だけが七つ残った
私の右側には情熱を置き忘れた顔と
情熱の取り戻し方を間違えた声
私の左側にはそれなりのサイズの水槽と
サイズの割に合わない大量の熱帯魚
ところせましと羽を広げて
未来なんかを 夢なんかを見ていた
そんな日々もあった
どうして私たちはグラスとか水槽とか
ガラス張りの壁の器に
幸福を閉じ込めてしまった
コポコポコポ
所有は不自由だ
持つ側も 持たれる側も
パトラッシュとネロのように
望む不自由が同じならいいが
水槽の目は死んでいる
私なら気持ち次第で越えられるが
彼らは決して抜け出すことはない
あまりの狭さに天使の羽が悲しい
魚の目は本来もっと輝いているはず
未来の海を想像して
キラキラしているはず
けれど私たちが知るのは死んだものか
死にゆくものばかりだから
「出してやって」
そう言いそうになった
だけどそんな当たり前の感情が
この水槽のなかでは禁じられる
なんとなく落ち着かなくなって
私が店を出ようと立ち上がったとき
多くの目が一斉にこっちを見た
ここから出して出してと
出して出して出して出してと
ハワイとか熱帯魚とか
石ころを蹴飛ばして帰った夕方とか
幸福なものたちが
皆 閉じ込められてしまった
コポコポコポコポ
機械的に続いていた泡の音が
叫びを巧みに表現していた
光も
風も
幸せも
すぐに去ることの
素晴らしさを想った
青の文字が
悲しみよりは喜びに似ていることに
ほんの少し希望を見出そうとした