永久脱亡
木屋 亞万

ああ死にたい
死んでしまいたい
指の先から煙になって
心臓まで燃えてしまえ(なるべく痛くないように)

ああ死にたい
しかし誤解しないで欲しい
私は死にたいと口にすることが快感なのである
死にたいと口にすれば頭は一瞬自分を殺す
しかも未熟な想像力でもって
痛くも苦しくもなく、消える
(実際の死はそうはいかないだろう)

ああ死にたい
という呟きは、叫びは
ああ恋人が欲しいというのと同じだ
実際に恋人ができたらその人間臭さに幻滅する
ああ恋人が欲しいと口走った瞬間に
ふっと頭をよぎる曖昧な理想像が良い

ああ飛びたい
空を飛んでしまいたい
飛んでいる自分は死んでいるのだろうか
飛行を終えるときに衝撃的に死ぬのだろうか
(蝋の羽が溶けて落下でもしてくれたら、最高!)
あるいは恋人に抱きかかえられているのかもしれない(理想の両腕に)

ああ恋したい
自分が風景だと思えるくらいの恋したい
どの風景名画から主人公を夢想しても嵌まるような人に
ただ黙って隣にいて欲しい、私を専属の風景にして欲しい

私は息を吸っては吐く
吐く息に混じって死にたいと言葉が出る
頭の中で自分が死ぬ
慌てて予備の何かがバックアップを復元し
数秒と待たずに自分は再生する

死にたいときは呟けばいい、叫べばいい
好きなときに好きなだけ、好きだと言えばいい
言霊が現れて、頭に適度な想像を引っ掛けてくれる
(想像力が幼稚であるがゆえの長所だね)

ああ死にたい
でも実際には死なない(死なないでいておくれ、我が身)
恋人なんか好きなだけ作ればいい
空だって安全に飛ぶ方法を考えよう
でも、現実的に死ぬことだけは絶対にしないでおこう
死ぬことは永遠に第一希望でなくては駄目だ
(ずっと死にたいと思い続けるには、生きていなくちゃ、ねえ)


自由詩 永久脱亡 Copyright 木屋 亞万 2008-10-26 00:19:13
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