クジラの氾濫
真鍋 晃弘

ニュータウンに大量発生した
クジラの話を
君はもう聴いたことがあるだろうか?
まだ小学校に入りたての小さな女の子が
クジラに噛まれただとか
男の子がこっそりと
クジラをベットの下に隠していて
母親をびっくりさせた話だとか
定年を迎えたばかりの
きちんとした身なりの紳士が
盆栽と間違えて
クジラの髭をパチンと切っちゃった話だとか
高校生の女の子が
3丁目のタバコ屋さんの角で
クジラと肩を組んで歩いていただとか
郵便局の集荷のアルバイトのコが
書留の封筒の中から
2頭のクジラを盗んだって信じられないような話まである
この話は君の住む町のすぐ隣の町の話だと思って聴いてほしい
他人事じゃないんだ
電車で一駅か二駅ばかり先の
小さな子供だってお駄賃を握り締めて行けるくらいの
小さな距離にあり
もし君がサラリーマンなら
会社帰りに酔っ払って
間違えて降りたかもしれない町の話なのだ
ひょっとするともう
クジラは君の家の縁先に潜り込み
この話を聴いているかもしれない
クジラはもう
ぼくらの生活の一部に入り込み
明日君が出会うかもしれない人やもしかすると
将来の恋人や伴侶のバックやポケットに入り込み
隙間から隙間へと注意深くジャンプし
トラブルや事件を巻き起こしてしまうんだ
僕らはもう
クジラの氾濫から逃れられやしないんだ
僕らはもう
クジラの氾濫から逃れられはしないのだ


自由詩 クジラの氾濫 Copyright 真鍋 晃弘 2008-10-25 15:50:25
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