解凍パニック
木屋 亞万

埋立地に学校を作る計画が生まれ
超高層小学校は数ヶ月前に着工された
現在建設中のその建物は黒い外壁と窓が
オフィスビルのように鈍い輝きを放っていた
すぐ目の前にはコンクリートで固められた海岸

屋上にはすでにバスケットゴールが置かれていた
その脇にあるベンチに座って海を見ると
水平線の向こう側まで見渡すことができた
工事の責任者であった私は昼休みによくそこで弁当を食べた

ある午後、仕上げ作業のために屋上から体育館へ向かうと
慌てた様子で走り去る部下数名とすれ違った
どうしたのだろうと体育館に入ると
中にとても大きな冷凍マンモスがいた

建物の性質上この体育館は通常の2階分のスペースを持ち
巨大な直方体の構造となっているのだが
そのフローリングの上に同じく直方体の氷の塊が
すっぽりと納まっているのだから驚いた

透明度の高い氷の中でマンモスの目は開いている
じっとこちらを見ている、あるいは下を見ているだけかもしれない
その眼差しは冷たく、まばたきをしないので睨まれているような気にもなる
憐れみ、嫌悪、あきらめ、友好、かなしみ、ほほえみ、怒り、目は雄弁すぎる

真新しい校舎に何千年も前からいたように立っているマンモスが
解凍されていく、圧縮されてきた過去の感情が私の中に溢れてきた
涙の強襲に涙腺の封鎖は間に合わず、雪解け水に混じって流れた
辺りは水浸しになって、どれが自分のかわからないくらい大量の記憶

マンモスは暴れた、直線を重視して作られた建物を次々に歪めた
歪曲していく鉄筋や倒れていく壁がとても嬉しそうに崩れた
私の中で死んだも同じの、二度と会わない友人達が雪崩のように校舎を走り
嘘に塗れて鳴りを潜めていたトラウマがどこかの教室で叫んでいた

高層の学校はばたりと倒れた、屋上のすぐ目の前には港の波止場
屋上のバスケットゴールもベンチも意味を持たなくなった
マンモスたちは学校を飛び出して、行列を作り海の中へと消えていった
学校はガランとしている、作業員も子どもたちもいないからだろう、急に静かだ
横倒しになった学校を見て、私は
やはり校舎は横長の方がいいなと思った


自由詩 解凍パニック Copyright 木屋 亞万 2008-10-25 01:16:39
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