暗い森
ふるる

もう
ここは冬
になってしまった
日は短くなり
昼からすでに夜の気配がする

けれど迷い人よ
冬のせいではなく
この森はずっと昔から
喪服の切れ端のように暗い

鳥は言う
「さむい、さむい」と
そして今日も
枯れかけた木々の枝先にひしがれている
だれかの薄い影を
かき抱くだろう

あなたは聞くかもしれない
何故こんなにも暗いのか

喰ったのだ
森は昔
いとしい少女が
若くして黄泉に旅立たねばならないと知り
少女を黄泉ごと喰った

濁った泉があるのはそのせいだ
決して飲むことはできない泉

森は冷えた霧の霊廟
奥深く今だ少女は眠る
決して目覚めることはない少女

森は少女を目覚めさせないよう
微かな声で子守唄を唄う

歌声が聴こえるのはそのせいだ
それを聴いた鳥は涙を落とし
また言うだろう
「さびしい、さびしい」と
そしてまた
朝焼けに溶けきれなかった
だれかの夢の残骸を
ついばむだろう

少女はどこへも行けず眠ったまま唇を動かす
歌声が聴こえるのはそのせいだ
鳥が滅多に鳴かないのは
鳥がすぐに死んでしまうのは
そのせいだ

もう
ここは冬になってしまった

迷い人のあなたは
ここから朝の匂いを辿っていけばいい
薫りたかい花の咲き乱れる
新緑と風に満たされる
春や夏へ
豊かに実りある
秋へ

時の小道は必ず続いていて
光につま先も髪も染まるだろう

あの分岐点で待っていれば
やがて日は延びてゆくから
延びていってしまうから
あなたは忘れるだろう
この森のことも
「さむい、さむい」と
泣く鳥のことも

忘れられたとしても
それでいいのだ
この森はずっと昔から
喪服の切れ端のように暗い

少女をうろに抱く
樹木のわたしが
鳥を抱いてやれたらいいのだが


それは叶わない夢だ


自由詩 暗い森 Copyright ふるる 2008-10-24 19:39:33
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