小詩集【かなしみ】
千波 一也





一 まざり、あう



かぜをすする、と
むねは
しずかさを
とりもどす

むかしむかし
おそらくぼくは
みずうみだったのだろう
かわではなく
うみでもなく

つきの
みちかけと
おしゃべりしながら
かぜのゆくえを
みていた、
のだろう


かぎがひかる、と
むねは
おそれて
さわぎだす

それゆえぼくは
こわくない、
こわくない、

なみだのなかの
てつに
なる


 あしたもかならず
 あめだろう

 いともたやすく
 よろこびに
 しずんでゆくのを
 こばむため


そうやってぼくら、
まざり、あうんだね

わかるかい、

きみのとけいが
かたるもの
わかるかい





二 あめかんむり



あめを
かぶるひとたちは
おうさまとして
こわいことばを
あやつります

わがものがおで
わがものがおで
うそもほんとも
とびこえます


とうのむかしに
そらがなげだした
かんむりを

いまでは
だれもしりません


あめを
かぶるひとたちは
そのおうこくに
みをつくします

うたがいもせず
うたがいもせず
まぼろしかもしれない
かんむりを
そっと
のせて

のせられて





三 すくわれていたい、のに



あさがたに
いきかえるいのちを
つきはしっています

そうしてつきは
さかなのゆめを
おもっています

おたがいに
みるものがなければ
ただのあぶくですから
なんとなく
ちかい、の
です


けれどもよるは
かならずおとずれるよるは
ひとつのて、でさえ
うたがわせるので

みな
うらがわへと
わたります


 そのいとなみを
 だれかが「し」だと
 よびました


ときのながれは
むずかしいものです

すくわれても
すくわれ
なくても

そこここに
いたい、という
こえはおなじですのに

そこここに
いきていたい、のに





四 かなしみ



よろこび、という
ことばそのものの
よろこびは
どこにある

ただしさ、という
ことばそのものの
ただしさは
どこにある

どうして、という
といかけそのものの
どうして、は
どこにある

おかえり、という
よびかけそのものの
おかえり、は
どこにある


それなりに
じゆうなわたしは
おなじくらいのちからで
とじられようとして
いる


かなしみ、という
ことばそのものの
かなしみは
どこにある

かなしみ、という
ことばそのものへの
こたえは
どこに
いる





五 つとめて



つとめて
まっすぐに
まがっていきたいものです

つとめて
ねっしんに
さめていきたいものです

そうして
やっぱり
つとめてたくみに
へたくそになりたいものです


 うたは
 かぎりなく
 おまじないににていて

 ほら、
 だれもがじぶんを
 よそおいながら
 しんじつへと
 あふれて
 しまう

 そこにはやがて
 はながさくので
 ひとびとは
 しあわせ・ふしあわせを
 さがしはじめるのです

 だれもがおんなじ
 やりかたで


つとめて
じゅうなんに
かたくなりたいものです

つとめて
ぱさぱさに
うるおいたいものです


うまれもった、この
かなしみを

かなしみの
ひを










自由詩 小詩集【かなしみ】 Copyright 千波 一也 2008-10-23 14:04:32
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