それが愛だと人は言う
桜 葉一

川原を散歩していると見たこともない不思議な形をしたものを見つけた。
石とは少し違う。言葉で言い表すには難しい。
なんというか見えるのだけどよく見えなくて
捉えどころのない形。
そんな感じだ。
恐る恐るそれを持ち上げてみた。
冷たい表面から何故か温かみを感じた。
その理由はよくわからない。
これはいったいなんなのだろうか
それらを見つめていると不思議な感覚に襲われるのだ
悲しみ 楽しみ 喜び 怒り
いくつもの感情が心の底からにじみ出てくる
そんな感じがした。

もしかしたら……これが愛なのかもしれない
なぜだかそう思った。
愛の形なんて誰も見たことないから
きっと人は気づかないのだろう

ふと、汚れを見つけた。
じっくりみてみると汚れではなかった。
名前が彫ってあるのだ。
落し物なのだろう。
すぐに交番に届けることにした。

「あのぉ……落し物拾ったんですけど……」
「あぁ、そうですか。でなにを拾ったのですか?」
「えっとぉ……これです。『愛』です」
「あっ『愛』ですかぁ、最近多いんですよね」
そういって。その若めの青年は笑った。

交番を出てるとなんだか急に寒くなった気がした。
「最近多いんですよね」
か……。

探しに行こう。
愛を。
どこかに落としてしまった愛を。



自由詩 それが愛だと人は言う Copyright 桜 葉一 2003-09-15 16:15:56
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