柿色の髪飾り
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「柿色の髪飾り」

私はずっと窓の外を見ていました
お母さんが結婚して、お父さんが新しいおばあちゃんを連れてきました
何を話していいのか分からず
私はずっと窓の外を見ています
おばあちゃんにはきっと、私の横顔しか見えていません
きっと逆光だから、私の鼻ぐらいしか見えてないでしょう
どんな顔をしたら老人が喜ぶのか私には分からないので
ずっと何も知らない顔をして向こうを向いているのです
横では、おかあさんが落としたコップの破片をおばあちゃんが拾っています
その時に気づいたのですが
おばあさんには親指がありませんでした

知らなかったんだもんと、私は思いました
知っていたら優しくしたのにと、思いました
それから、安堵しました
老人は人間だけど、私より正しいというわけではないし
わざわざ気に入られるようにする必要もないのだと思いました

けれど親指が目に入ってしまったせいで
もうそれ以上おばあちゃんの手を見えなくなりました
おばあちゃんを傷つけてしまっては可哀想なので
私はますます窓の外ばかり見るようになりました

お茶を飲み終えておばあちゃんはお母さんに話しかけました
そろそろ帰るわね
それから声を小さくして
あの子はとっても可愛い子ね、と言いました
しわしわの、とても優しい声でした

これからよろしくね
おばあちゃんはそう言って私に小さい箱をくれました
ありがとう、と言ってみんなでおばあちゃんを見送りました
自分の部屋に戻って包みを開けると、中には柿色の髪飾りが入っていました
綺麗な細工のしてある、花のかたちをした髪飾りでした
お母さんが結婚してから、私はお洋服を買ってもらっていませんでした
髪飾りを触ったこともありませんでした
もぉ、と一人、泣きそうな顔を作ってみて
その髪飾りを引き出しの奥にきちんとしまいました
決めました
私はとうぶん、髪は切らないでおこうと思います







自由詩 柿色の髪飾り Copyright it 2008-10-19 23:09:29
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