今日は窓際の席は止めよう
曇り空にスリットが入り
わずかに日の光が差し始めたけれど
今日は明るい景色を見たくない
風に揺れる梢も
今しばらくは静かに止まってしまえばいい
賑わい始めた午後のイタリアンレストランで
独りヘッドフォンに頭を揺らし
いつものランチを取る
お気に入りの席には二人の母娘(オヤコ)づれ
にこやかに笑う母親は延々と話し好きで
娘は落ち着いた様子でその話に聞き入っていた
中年と言うにはまだ若い彼女は穏やかで美しく
母へのいたわりと周囲への配慮を感じさせる
平和な日常と喜びに溢れた家庭が遠くに見えた
サーモンマリネに歯ごたえのあるビーンズの組み合わせ
前菜と一緒に彼女は何を見て笑ったのだろう?
視線を漂わせ彼女が一瞬微笑んで見せた
彼女の前方には一組の父娘(オヤコ)が座っていた
ブラックチェリーのスカートに黒のニットのカットソー
ポニーテールが似合う娘は十代初めに見えた
輝く星のラメが入った金色のバックを大切に抱えている
彼女は何を見て微笑んだのか?
お澄ましして父を見上げる娘?
穏やかに見守る父親?
それとも遠くに見える幸せな家庭の姿?
一瞬見せた彼女の笑いの意味を考えながら窓の外を見ると
秋の光が黄色いさざなみのように光って見えた
ふいに彼女と目があった
彼女は自然な感じで僕に目で挨拶を送ると
再び話掛けて来る母親に視線を戻した
僕は静かに席を立って
いつものイタリアレストランを出た
季節の変わり目の不思議さ
すっかり晴れた秋晴れの空の下
いつの間にか黄色い幸せな気持ちになったのは
何故だろう?