愛
木屋 亞万
河原にたくさんの愛が落ちている
否、河原には愛しか落ちていない
そのうち(どれを選んでも良いのだが)の
一際尖ったものを拾いあげ
膝の上、ふとももの天井をスッと裂く
裂こうとする、血が垂れるのを期待して
しかし、皮膚には白い粉を吹いた筋ができ
赤く腫れて痛いだけだった
私はその愛を川に投げた
数回ほど水を切った後、消えた
もう会うこともない
今度は丸い愛を拾う
すべすべの表面は冷たく
思わず頬擦りしたくなるほどだ
日々大切に持ち歩いていたが
その愛はいつも冷たい
私以上に温かくなることがない
金銭的価値はおろか社会的価値もない
腹が膨れる訳でもない
私はその愛をごみ箱に捨てた
ゴミ袋を引き寄せるように底に
沈んでしまって見えなくなった
もう会うこともないだろう
今度は熱い愛を拾った
熱いままに鍋料理を作り上げ
冷めても漬け物を作り上げただろう
しかし今度の愛は重過ぎた
その重さに私は耐え切れず
疲弊していくばかりだった
私はその愛を売った
あまり価値を持たない愛も
金になることがわかった
その愛は夜の闇に消えていった
今度は軽い愛を拾ってみる
かかとを擦れば垢でも取れるかと
軽い気持ちでその愛に近付いた
その愛はとても傷つきやすく
お世辞にも美しいとは言えなかった
私はその愛を乱暴に扱うようになった
私はその愛を壁に投げ付けた
軽い音とともに愛は弾け
わずかに壁にこびりついたが
砕けたほとんどが風に流れ去った
最後に最高に綺麗な愛を拾った
今までに拾ったどの石よりも
鮮やかな色彩を持ち、光り輝く愛を
周囲の誰もが羨んだ
盗もうとしたものさえいた
しかし次第に周囲は飽きてきて
また他に新しい綺麗な愛を持つ者を
見つけては、その人を羨んだ
そのうちに私自身でさえ
いつかの熱狂を忘れてしまい
どこかに愛を紛失してしまった
かくして私はたくさんの愛に囲まれ
拾い放題の河原にいたにも関わらず
今は一つも愛を持っていない
もたもたしている間に
川は氾濫し私を下流に押しやった
愛はもう遠い存在となったのだ
どんな種類の愛を持つか
どんな価値の愛を持つかに
こだわりすぎて、愛を
持ち続けることをしなかった
だから愛をわかっているようで
その実、何も知らないに等しい
とても淋しいことだ