もっさり八兵衛 我が道を行く
けんご

病棟の
もっさり八兵衛 我が道を行く
すかっと刈った髪 背筋をすっと伸ばし
九九の暗唱の次は
社会科の勉強だ

でも
八兵衛にはこだわりがあってね

トイレの履物は数ミリの誤差で整頓され
八兵衛の高い誇りを見せている
でも行き過ぎなんだ
他の人がトイレに入れない

7*4=28 7*3=21 7*7=36

八兵衛のことが問題になると
彼のまゆげは三角になり
目は点になる
あまり悪気はなさそうだ

そんな時でも
八兵衛は一人ぼっちを紛らそうと
トイレに逃げ込む

昨日八兵衛が
僕にコーヒーを奢るというので
僕は王様の心地になって
部屋で待った

  それはここで一番美味しいコーヒーで
  クリープも砂糖も入っている
  八兵衛に親切にしてよかったと
  僕は悦に入る

八兵衛の出身はあまり聞かない
僕の隣町のようなところに住んでいたらしい
一人で列車に乗る術を知らないので
彼はいつも誰かを必要としているらしい

  僕が不眠の悩みでベッドと談話室の間を
  行き来する時
  八兵衛は大の字になってぐっすり寝ていたようだ

こんなささやかな苦しみと幸せが
僕らに与えられていると
人には高いも低いもないように思えてくる
病院は案外と面白い所だね

  ただ 僕も社会へと帰って行きたいから
  またどこかですれ違うことがあったら
  やあ ご機嫌いかが?と挨拶をして
  旧交を温めあおう




                         2008.10.2.






自由詩 もっさり八兵衛 我が道を行く Copyright けんご 2008-10-17 17:28:24
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