聴こえないふり
小川 葉

 
そういえば
結婚式しなかったね
ときどき妻が言う
僕は聴こえないふりをする

本当に
妻がそう言ったのか
確証のないまま過ぎてしまう
日々の幻聴のように

出会ってから
十数年が過ぎていた
子供ができて籍を入れた
はじめての新婚だった
それなのに子供ができてまもなく
僕は仕事を失った

結婚式なんて
いつかきっとできるさ

心の中で思ったのか
あるいは
知らず知らずのうちに
思わず声にだしてしまったのか
確証はないけれども

たとえば
あの日から
大切なものを守ってきました
というそれは
未来の記念日だっていい

ときどき妻は
聴こえないふりをして
僕に言う

そうだね
とだけ言って
目が合って微笑んでる
そんなことが
この夫婦にはときどきある
 


自由詩 聴こえないふり Copyright 小川 葉 2008-10-17 04:25:13
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