( 今)に立つ
服部 剛
職場の休憩室で
目覚めた朝
ふいに手を見ると
午前零時過ぎまで残業した
昨日の仕事をメモした文字が
手の甲に薄っすらと残っていた
昨日がどんなに忙しかろうと
昨日がどんなに充実しようと
手の甲の文字は消えてゆく
昨日の笑い声もいつかの悔し涙も
遠ざかる過去に立つ
ドアの白い入口に吸い込まれゆく
いっそのこと
手の甲に薄れた文字の全てを
石鹸で洗い流してしまえばいい
(今日も私は無心で水道ノ滝の下――両手を洗う)
絶えず流れる時の中
過去でも未来でもない
上でも下でもない
(今)という場の中心に
私は立つ