盟友 ・六九狂 vivienne に捧ぐ
服部 剛
古い詩友のvivienneが
MCをする「ユメイマ」
(夢を語るより今を語れ)に参加して
天井に青い星々の瞬く暗がりのBarで
「あの頃僕等は始発待ちまで語らった」と
懐かしい詩を朗読した翌朝
僕は一人
ガラス越しにスクランブル交差点を一望する
渋谷のSTARBUCKS2Fで
Zen(禅)という茶を一口
長方形の狭いフロアに
今日も若者達の会話は弾み
階段の手すりに凭れた白人達も
飛び交う英語の合間にCafeを啜る
僕はといえば
丸テーブルの傍らに腰かけながら
すました顔で
(隣にかわいこちゃんでもこないかな)
などと朧げに夢見心地で
ガラス越しに目覚めた渋谷の街を照らす
仄かな朝日を浴びながら
Zenをもう一口
床に置いたリュックの開きかけたファスナーの隙間から
昨夜の朗読会で買ったCDジャケットに描かれた
vivienneの自画像が
唇からひとすじの血を流しながら
ニヤリと僕を見る
店内にはルイ・アームストロングの嗄れ声で
「What a Wonderful World」が流れ始め
スクランブル交差点で立ち止まっていた
信号待ちの人々はスローモーションで
まばらに散らばり歩き出す
渋谷駅前の広場には
モノクロームの昭和を走った
旧い緑の電車が置かれ
車窓に凭れた若者達は
今日会う誰かを待っている
祭日を祝う幾枚もの日の丸の旗が
緑の木々に吊るされながら
秋風に靡いている
今よりもっと若かった僕等は
10年前も朗読会で徹夜した後
開店して間もなかったこのCafeで
肩を並べて人気少ない
夜明けのスクランブル交差点を眺めながら
路上の物語を語らった後
地下道の階段に身を崩して坐る
家の無い男に
一つのパンを手渡しにいった
あれから10年の時は流れて
僕等は少しだけ大人になったろうか?
あの頃思い描いた大人を演じているだろうか?
あの頃君は学園祭で
ギンズバーグの詩を読みながら
キャンバスの池に飛び込んで
その場にいる全員の名を
聖なるかな、○○・・・!
聖なるかな、○○・・・!
・
・
・
とずぶ濡れで叫んでいた
聖なるろくでなし達の詩は
大人になった今もこの胸に
痛みながら、疼きながら、
あの頃のメロディーで流れている
僕等は今も
時に地上でずぶ濡れながら
破れた約束の手紙を破りながら
希望の夜明けのコーラスが
聞えて来るのを待っている
僕等は今も
全ての鉄条網を取っ払い
手と手をつなぐ輪になって
希望の夜明けのコーラスを
合唱する日を待っている
床に置いたリュックの開いた隙間から
vivienneの自画像が僕を見る
ジャケットからCDを取り出して
ディスクマンの蓋をして
イヤフォンを耳に入れる
「ゴールデンスランバー」という
夜明けを願って叫ぶ朗読を聞き
懐かしい気持で店を出て
スクランブル交差点で立ち並ぶ
信号待ちの人々の方へ歩いてゆく
昨夜の別れ際
握手を交わした時の
あの頃と変わらぬ
vivienneの
瞳の光を思い出しながら