牧場
たもつ

 
 
見渡すかぎり牧場でした
穴がありました
さりさりと音をたてて
ショベルカーが掘っていました
人が幾人か落ちていきました
むかし近くにあって駅みたいでした
僕と僕の大切な人は
落ちないようにまわりこんで
そして歩きました
僕は本当にその人のことが大切でした
カーテンの隙間から凪いだ海と
小規模な紛争だけが覗ける部屋でそう思ってから
そう思っていました
風があたると少し痛い感じがしたので
僕らは隠しました
そして歩きました
言葉にすればやさしいのに
言葉はいつまでも僕らのすべてや
一部ではありませんでした
そして歩きましたが
もうお終いのようなところに座って
夕べ食べた甘い梨の話をしながら
皮膚などを触ったりしました
それから草と日の光で
時計を編みました
首を伸ばして向こうを見ると
産み落とされたたくさんの命と引きかえに
牧場はもうありませんでした
 
 


自由詩 牧場 Copyright たもつ 2008-10-13 11:22:26
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