牧場
たもつ
見渡すかぎり牧場でした
穴がありました
さりさりと音をたてて
ショベルカーが掘っていました
人が幾人か落ちていきました
むかし近くにあって駅みたいでした
僕と僕の大切な人は
落ちないようにまわりこんで
そして歩きました
僕は本当にその人のことが大切でした
カーテンの隙間から凪いだ海と
小規模な紛争だけが覗ける部屋でそう思ってから
そう思っていました
風があたると少し痛い感じがしたので
僕らは隠しました
そして歩きました
言葉にすればやさしいのに
言葉はいつまでも僕らのすべてや
一部ではありませんでした
そして歩きましたが
もうお終いのようなところに座って
夕べ食べた甘い梨の話をしながら
皮膚などを触ったりしました
それから草と日の光で
時計を編みました
首を伸ばして向こうを見ると
産み落とされたたくさんの命と引きかえに
牧場はもうありませんでした