絵空事
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血ガ循ルコノ躰躯ハ只ノ物質ニ過ギナイ
ヤット秋ラシイ夕空ガ西ノ山ニ向カッテイルノヲ見ナガラソンナ気ガシタノモ
今トナッテハ嘘ノ中ニ溺レタ蜻蛉ノ羽音ノ様ニ微カナ記憶ノ残滓トナッテイル
今や景色は黄昏れて、群青色の闇に部屋の中が染まろうとしている
ベランダに干されたままの洗濯物が冷たそうにしている
この感覚が絶対的に孤独なんだと、この闇迫るひとときのうつろいが囁いている
しかし虫の音色は孤独な耳に染みてくるものだ
頭ノ中ガイッパイデ吐キ出ス術モナイノダカラ
麻痺シテシマウノガ手ッ取リ早イ過ゴシ方ナノダロウ
只過ギ行ク中ニ居ルダケデ世界ハコウモ美シイノダカラ
永遠ノ世界ハドンナニカ美シイダロウ
独り美しさの前に茫然と立ち尽くし、言葉もなく涙すること
川の流れだけが微かに震えている
雲間の太陽すら眩しく感じる
彼方の山際は永遠の彼方の中でこの静かな瞬間の対称を極めた焦点として座す
コノ感覚ノ孤独ノ中デ静カニ暮ラシタイ
ソウ願ウトキ感覚ノ中デ築カレタ大塔ハ音モナク崩レ去リ
感覚ノ孤独スラ消エタ雑音ダケガ見エテシマッタ
魂は血の循りとは別の所からやって来たのだ
命繋ぐ生命の営みとは別の所からやって来たのだ
魂の世界で見た夢が、あの山際に霞んだ輪郭の中では今も揺蕩ている
それは目を閉じて見る穢れない清浄の絵空事か