アリとキリギリス
皆月 零胤

昔々
あるところに
お爺さんとお婆さんが住んでいました
お爺さんは山で光る竹に見とれるばかりで
芝刈りはしていなかった
お婆さんは川で流れる桃を見送るだけで
洗濯はしていなかった
そんな日に
浦島太郎は
浦島太郎として生まれ
浦島太郎として生き
子供の頃から遊んでばかりいたが
金太郎は熊を倒した

結局鬼が倒されることはなかった
ウサギはタヌキを泥舟で沈めることもなく
カメに抜かれることもなかった
カメは子供にもいじめられ
龍宮城にも連れて行かされた
浦島太郎と深海に沈み続ける
きこりは川で斧を沈め続ける
人魚は歌で船を沈め続ける
いじめっ子が土管の上で歌えば
いじめられっ子の心は沈む
耳のないネコ型ロボットを空想で創りだして
タイムマシンで旅行をしている間
浦島太郎は龍宮城で遊んでいて
働きもしなかったが
金太郎はサラリーマンとして働いた

納得のいかない金太郎が叫ぶ
一寸法師が何故か茶碗のお風呂から鬼太郎を呼び
のび太がドラえもんを呼ぶから
ケンシロウもついユリアの名を呼んでしまうが
ロッキーだけが叫び損ねてしまう
それらを
すき家でキン肉マンは聞いたような気がしたが
気のせいだと思い牛丼をひたすら食べ続けた
そこが吉野家ではなくても気にも留めなかったが
鶴を助け忘れた気がする
つるの剛志はTVの中で
剛田武は土管の上で歌を唄う

テイクアウトした牛丼のフタを開けても
浦島太郎は玉手箱を開けることなく漁もせずに
お爺さんになって
金太郎は働き続けて定年を迎えた
ここでロッキーが叫ぶ
やっとエイドリアンの名前を思い出したようだ
もうスタローンにロッキーは厳しく
ミッキーロークにさえ倒されてしまいそうだ
枯れ木に花を咲かせずに
矢吹ジョーが灰のように燃え尽きていても
誰も気にしなかったし
誰かが月に還ることだってなかった
小次郎を待たせたままにして
武蔵は巌流島にも行かなかったし
夢見がちな少女にも
最後まで王子様はやっては来なかった
竹も桃も木も切られることはなく
ただ船が沈んでゆくように時が流れ
ただ浦島太郎として生まれ
ただ浦島太郎として死んでゆく
ただそれだけだった
乙姫様のハートはルパンが盗んでいったから
別にめでたくもなかった

浦島太郎と金太郎が
吉備団子を食べながらお茶をすすり
そんな話をしながら遠くを眺める

空き地の土管の上では
キリギリスの夢を見ながら
孤独を噛み締めて
今日もジャイアンが届かない歌をアリのように唄い続ける


自由詩 アリとキリギリス Copyright 皆月 零胤 2008-10-11 15:00:02
notebook Home