秋の瞼
氷水蒸流

そしてまた
時を迎えた一枚が 枝から
静かに離れ
少しのあいだ宙にゆれ
小さな音を立てて
落ち着く

雲とともに水たまりを漂い
やぶれたポルノの栞になり
四角く切り取られた月の光に不時着する
そしてまた 鳥の巣と
鳥の巣みたいな頭と
同化する
小さな音たち

点と点はつながり
糸のように細やかな旋律
線と線は重なり
織り上がる透明なキャンバス

画家は秘かに描き
無造作に消した
すべての色は滲み
消された痕跡もまた、滲んだ

赤をぬりたくられた秋
群れからはぐれた猿が
薄い空を見つめ
滲んでいる
乾いた目のひび割れを
腹を満たした蛆虫が渡って行く
そしてまた
時を迎えた数枚が 枝から
静かに離れ
少しのあいだ宙にゆれ
小さな音を立てて
彼の
新しい瞼になる



自由詩 秋の瞼 Copyright 氷水蒸流 2008-10-11 10:30:16
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