じつと手を見る
木屋 亞万
色々なものに触れてきたはずの
手はくすんだ色をしている
そして力に満ちている
地上のいかなる節足動物も到達できない
しなやかさを持つ
指を伸ばした手の甲をそっと見やれば
4本の指の2つの関節が連なり
緩やかな二曲線を描き
親指の爪の先へと消えていく
それぞれの指の関節からは
波紋のようにしわが広がり響きあう
第一関節と第二関節の波紋の隙間
過去の涙や笑い声が丹精に折り込まれている
手のひらにはどのような直線よりも美しい
曲線がたくさん交わっているのが見える
一本の長くて太い直線よりも
気が遠くなるくらい細くて短い曲線の
交錯しあう方が落ち着きを感じる
手はしわの宝庫だ
そのしわの群れの中に
いくつもの感情の波と、超えがたい山が眠る
手のひらから見る指の節は
竹の節のようにわずかな硬度を持ち
関節の動きをしわが包容する
竹のような指の頂には
人物を象徴する指紋が渦巻いている
その渦はあなたが触れてきたものに
さりげなく足跡を残す
もちろん指にも、触れた感触が蓄積される
握り締める手の真ん中にぎゅっと集まる力
その握った手の中心にできた窪みに
怒り、悔しさ、決意が何度溜まることだろう
手の心をそっと関節と骨の中に閉じ込め
殻にこもる貝のように締められた手のひらは
心の知らぬところで人を傷つける
その痛みは皮膚だけでなく骨の髄まで
響くような痛み
じっと手を見る
手は考える隙間を与えてくれる
手を合わせる
分かれていた過去が合わさる
手と手をつなぐ
静かに心と心が触れ合う
人間が手に入れた最も美しいものは
手だ
柔らかく、そして硬い
手が最も人間らしい
そう思わないか