鎌倉・報国寺にて
服部 剛

境内の裏に入ると
空間を埋め尽くす
しなやかな竹林の足元を縫うように
白い石畳の道を辿る

少女は
ひしめきあう竹の頂を仰ぎ
さやぐ笹の葉の隙間の青をみつめ
木漏れ日を浴びる女神ミューズ

手前に立つ恋人は
世界で一番美しい絵を
レンズ越しに収めようと
人差し指をボタンの上にかまえる

細道の両脇を仕切る
縄の前に僕はしゃがみ
竹に囲まれたお地蔵さんに合掌する

背後からの風に運ばれる
細い水の音は
竹筒から岩を打ち
やがて 苔生す岩に 道をもつくる

お地蔵さんの背後から
大きいかたどりの石が御姿を包んでいる

この寺を訪れる人々は
立ち並ぶ竹の隙間からの斜陽に射されて
背後にはおぼろな何者かを浮かばせ・・・

「十二番のお客様」
紺の寒衣を着たおばさんから抹茶を受け取り
茶屋の赤い敷物の長椅子に腰を落ちつける

竹筒から岩へと滴る細い水の糸をみつめ
茶碗の丸みに 手をあてる


自由詩 鎌倉・報国寺にて Copyright 服部 剛 2004-07-31 15:57:37
notebook Home 戻る