流れ雲
松本 卓也
生きているだけで
ただ価値があると言う
戯言を口にしていた頃から
僕の中での世界の価値は
どれだけ値札を上げたのだろう
ほんの少し前までは
掴もうと手を伸ばした雲も
冷えた風に早々に流されて
一つ一つと見失う
捨ててきたものと同じくらい
手に入れたものがあるのなら
煙草を吸い込むだけ縮んでいく時間に
少し位は悔いていられるだろうに
普段は笑っていれば良い
叱責でもされたのならば
申し訳なさそうな面をして
俯いていれば良い
そうやって抱えた不満も
何処にやる事もできぬ不安も
独り抱えているだけだから
まだまだ身軽に過ごしていける
クールビズで居続けるには
褪せた街から吹き付ける風が
冷たすぎやしないかな
久方ぶりに問われた意味に
答える言葉も無くしたままで
明日は何処まで流れようか