行方不明
1486 106

「探さないでください」
そう書き記された置き手紙は
彼の心境を静かに物語っていた

そこからいなくなることで
初めて存在が知られるというのは
忘れられるよりはるかに寂しい

空っぽになった彼の部屋も
やがては他の誰かが住み着き
すべてなかったことになるのだろう


「探さないでください」
そう書き記された置き手紙は
彼からの最後のメッセージだった

彼が行方不明になったことで
人ごみで溢れかえるこの町は
1ミリでも動いたのだろうか

笑ったり強く生きなさいと
人生を諭す優しい人達が
また誰かのサインを見落とす


もしかしたら今頃彼は
そう遠くない場所で暮らしているのかもしれない
ただ誰も気付かないだけ
風のように通り過ぎる人影を
誰かが黙って見送るだけ


自由詩 行方不明 Copyright 1486 106 2008-10-05 23:12:57
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