行方不明
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「探さないでください」
そう書き記された置き手紙は
彼の心境を静かに物語っていた
そこからいなくなることで
初めて存在が知られるというのは
忘れられるよりはるかに寂しい
空っぽになった彼の部屋も
やがては他の誰かが住み着き
すべてなかったことになるのだろう
「探さないでください」
そう書き記された置き手紙は
彼からの最後のメッセージだった
彼が行方不明になったことで
人ごみで溢れかえるこの町は
1ミリでも動いたのだろうか
笑ったり強く生きなさいと
人生を諭す優しい人達が
また誰かのサインを見落とす
もしかしたら今頃彼は
そう遠くない場所で暮らしているのかもしれない
ただ誰も気付かないだけ
風のように通り過ぎる人影を
誰かが黙って見送るだけ