モスグリーン通り
キリギリ
並ばずにメロン汁を注がせる店
メロン汁を注がさせることの出来る店の隣りに
詩を書いてなんの意味があるんですか?という看板があり隣りに
新しい道具から産まれる新しい欲求という看板があり隣りに
貴方の残した足跡が誰かの切り取り線でありますようにという看板があり隣りに
才能ネグサリーというアクセサリーショップがあり隣りに
小利口な保身術買い取りいたしますという看板があり隣りに
誰かの過去を知ることは自分の未来を潰すことだとは思わないかという看板が
あり隣りに本来とか本質が口癖の男ってウザイよねという看板があり隣りに
あなたのオナニー見せてくださいという喫茶店があり君はよくそこにいる。
メニューの代わりに自販機がある効率的なその店で君は
分かち難いものを天秤の両皿に乗せようと苦心している隣りのテー
ブルでは1人を囲む4人が水蜜桃に似たシリコンを飲み込めないでいる。
トースターを指差し食パンが焼けるんだぜと誇らしげな男が現われては消える。
風景ががばーと開く。だらしなく開く。目を覆いたくなる。
友が土を食う姿を見て何とも思わなければそれは本当の友ではないという看板の
隣りに知識とは階段であり自惚れというすべり台を滑るという看板があり隣りに
おぞましい遺伝子おぞましい遺伝子という看板があり隣りに猫がいる。
素人芸と結果論の集いが至る所で開かれ往来を妨げている。
昼下がり格差社会の負け犬が運転する2tトラックが中空を走り
身長180cm以上の人間の頭部に影響を与え通り過ぎる。
切なくなると開くドアの前に刃物を持った男が現われ意味不明なことを言う。
ちゃんとしましょうよ子供じゃないんだからという看板の隣りで君は
でも出来ないと言い通りがかった紳士がそれでもいいと言う。
チャンネルを変えると夜になった。誰も喋らなくても夜になる。
シンプソン・ファミリーに似た黄色人種が鶏肉の調理法を巡り口論をしている。
羽交い締めにされた方が相田みつをを引用した途端、強い雨が降り始める。
あんたのナルシシズムに付き合わされる身にもなってくれという看板が
見えなくなる。陰謀論で余生を過ごすのかいという看板が見えなくなる。
健康こそ財産ですという看板が見えなくなる。貧困を憂う詩を書くことと
幼女ポルノでオナニーすることにどんな違いがあるんだいという看板が見えなく
なる。殺菌灯が見えなくなる。爪先が見えなくなる。筋肉が見えなくなる。
スコールのようなどしゃ降り。意味が分からなくなる。愛おしくなって貶す。
引力に従って落ちる。理解者を欲する。本能が拒否する。潔癖性になる。
意外性が失われる。口答えしなくなる。親密さを感じる。元通りになる。