カルシウムの楽譜
《81》柴田望

      係長はDragonの息を運ぶ
      係長の無線は命がけだ
    つねに最小限のコトバで
    応答しなければならない 
 係長がいらいらするのは
カルシウム不足のせいではない たとえ血液中のカルシウム濃度が不足しても 骨のカルシウムが溶け出し 常にほぼ一定に保たれる 仮にカルシウム不足で精神不安定に陥るなら それ以前に重度の骨粗鬆症になるだろう

      係長の 無線 は命がけだ
   常に最小限の 言葉 で
必要な情報を無限に 表現 しなければならない
   余計な話題は 一瞬 にして
          無限 に捨てなければならない  
    どうぞ、と
    了解、の
    形式守る
   係長は     昔気質のサッカであり
   文体で   イブキ運ぶ

新人のころ、こっぴどくやられた
  あやふやな応答は 許されない
知らないなら、知らない
悪いなら、お前が悪い
すみません、 じゃすまない

      係長が  いらいらするとき
   ぼくが   おどおどするのは
      カルシウム不足のせいではない たとえ血液中のカルシウム濃度が不足しても 骨のカルシウムが溶け出し 常にほぼ一定に保たれる 仮にカルシウム不足で精神不安定に陥るなら それ以前に重度の骨粗鬆症になるだろう

       係長はその 道を 極められ
代わりに主任がDragonの 息を 運ぶ                                       
   主任は係長より話しやすい、いいやつだが
     ぼくは 物足 りない
     会話とは  即答  であり
   雰囲気をつなぐ 技術 であり
      ときには 口挟 んだりせず
  じっと聞くことも 大切 であり
      話題を  無限  に捨てて話せと
       ぼくと 主任 は教わって
        免許 皆伝! となったのだが
       係長の 罵声! がない限り
    現場はどこか 生温 い

 係長の無線は居合い抜きだ
       相手が常務だろうと、社長だろうと
                 容赦なし
  カルシウム不足のせいじゃないことは
  みんな知っているのだ



初出『砂の女』2008年7月発行 《81》柴田望


自由詩 カルシウムの楽譜 Copyright 《81》柴田望 2008-10-05 20:41:31
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