処女懐胎
天野茂典

  
  

  ぼくは産道から生まれてきたことが
  いやだった 仏陀のように
  キリストのようにぼくは人と違って
  生まれてきたかった あまりにも
  人間が生々しすぎて 羊水だの
  出血だの 胞衣だの 生理的な
  誕生に 悪意をもっていた
  マリアの処女懐胎も眉唾もので
  好きではないが まだ清潔感が
  感じとられた ぼくは宗教的な人間でないが
  ぼくの出生にかかわる人間的なあまりに
  人間的な 誕生は ぼくをゆううつにした
  ぼくのなかの透明感が 純粋培養の
  土壌を育てたのかも知れない
  ぼくは人間がきらいなのだろうか
  人間誕生の神秘に竿指すつもりはないが
  ぼくはほんとうに女から生まれて
  きたくはなかったのである
  ぼくの清潔感がそれを許さない
  ぼくは人間ぎらいなのだろうか
  女ぎらいなのだろうか
  ぼくはいきなり 天上天下唯我独尊などとは
  いわないが 宇宙と交信することぐらい
  はするだろう 神秘主義者でもないぼくが
  なぜこんなことを考えるのか不思議だが
  子供の頃から考えていたことはじじつである

  おそらくぼくは人間を買いかぶっているのだと
  おもう


自由詩 処女懐胎 Copyright 天野茂典 2004-07-31 07:47:58
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