影のない犬
小川 葉

 
たくさんのくだが
生き物としてひとつひとつ
呼吸してる
反面そこにはいつも
ニヒルな顔して詰襟を着た
兄がいた

たぶん
高校生だった
彼のことを今は誰に聞いても
知らないと言う

ビーカーに
薬品を入れて
破裂させる実験をした
おそらく兄も

まざりあうたびに
血は濃くなり薄くもなり
それらが流れるくだは言うまでもなく

ある朝犬を見た
寝起きの休日にぼんやりしながら
朝はいつでも朝ではないような気がしていて
それでもやはり朝だった

犬に影はなかった
なかった気がしていただけなのかもしれない
ただそれだけのように
詰襟を着て
ニヒルに笑う兄を見たのも
それが最後なのかもしれなかった
 


自由詩 影のない犬 Copyright 小川 葉 2008-10-04 22:55:02
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