声
草野春心
ポケットに、
空っぽをまさぐる。
耳をすます
……ふりをする。
見つめたって、さ。
その空は上にあって。
その海は遥かにあって。
ただのまなざしは、
けして届かないもの。
アルバムに、
面影をさがす。
指でなぞる
ただ、ひらべったい。
話したって、さ。
あの友はすでに去って。
あの夢もすでに散って。
放るような声は
ゴミ箱に、ポイ。
*
街は今日も
漂白な奴らが、
漂白している。
見え透いた足音、
風にほどけて。
探している、のかい?
待っている、のかい?
だろう、だろうって、
言い当てたいのかい……
「街は今日も……」
なんて、言い飽きた。
*
同時多発性の孤独が
一人ひとりの孤独が
闇に、爆音敷き詰めて
すべるレールの、上。
無数の、轢死体……
見物人の嘔吐物と、
捧げられた、花束。
いま、ここに。
*
声 声 声……
言葉は、切られた。
意味は、晒された。
線は、曲げられた。
脈は、絶たれた。
声 声 声……
うすっぺらの白に
ぶちまけられた
バケツ億杯分の、
血 血 血……
鑑定不能……
声……
*
是と非が組み合って
織りなす光の中に
生れた僕らの暗さは、
流産した魂。
仮説。
*
(やめにしないか?)
(もう、やめにしないか……)
*
漂白な命が、
漂白している
街に虹を描けたら……
あの黒さえも、入れて。
切り開いた眼で、
見れば、見れる。
真昼の人たちも、
ほら、光っている。
赤、青、黄色、
白。
見れば、見れる。
*
「糞みたいな人間と、
人間みたいな糞は、
同じではないのだから、
歩こう。
人の生きる場所へ」
*
そう!
人の生きる場所へ。