星になる方法
角田寿星
なあ あんちゃん
俺たちふたり ドラム罐転がして
まっすぐな坂道のぼっていこうよ
ここ二週間 頭は痛えし咳がとまらねえ
たぶん少しだけちがった空気吸って さ
たぶん少しだけちがった景色を見に行こうよ
せまい国道を車がびゅんびゅん走ってる
大粒の雨がおちてきて すぐに土砂降り
シャンプーも石鹸も持って来なかった
俺たちはかるく舌打ちする
あんちゃん 今 ドラム罐の手をはなして
頬にかかる雨を拭ってなめてんだろ
しょっぺえのか しょっぱいんだな
なにか楽しいことでも思い出そうか
ボイラーの下にネコが四匹寝そべってるとか
国士無双十三面待ちとか
雨粒は線になってどんどん幅をひろげて
雨の垂幕を俺たちはくぐり抜けていく
しろい昼 くろい夜
ページをめくるたんびに
回転するドラム罐の中で俺は目をつむって
肩があらぬ方向に曲がってはまた戻る
ドラム罐転がすふりをして あんちゃん
俺たちきっと
地球を転がしてんだよね
(一九九九年二月十四日、惑星探査船ボイジャー1号は、
地球から四十億マイルの地点で、草原で少女が微笑む
ように振りかえり、彼女の母星をみつめ、最後から二
番めの任務を遂行した。
地球を発ってから、すでに十三年が経過していた。
彼女のフレームに映るのは、寄り添うような光の粒。
太陽とその惑星たち。太陽系の「家族写真」を撮影し、
地球に送信した後に、彼女は永久にその瞳を閉じる。
現在も彼女は最後の任務を遂行中である。彼女は宇宙
塵のただなかを突っ走る。どこまでも遠くまっすぐに。
その瞳を閉じたままで。瞳を閉じたまんま。)
あんちゃん
俺たちふたり たぶん肩を並べて
このまま海まで連れてってくれよ
水がいっぱいだから風呂にも入れるよ
それに虹を見れるかもしれないし
海辺を列車が突っ走ってるかもしれないし
あんちゃんの尻ポケットに
くしゃくしゃの千円札が一枚
雨に濡れて底に張りついて
どうにもならないほど溶けかかってる
虎の子だってのに
どうやって直そうか ふたり思案にくれる
俺たちのドラム罐に
あんちゃんが顔を突っ込んで覗いてる
俺たちは顔を見合わせる
そこがまるで井戸の底みたいな
満天の星空だったらいいのにな
なあ あんちゃん
泣くんだか笑うんだかどっちかにしようよ
誰が死んだとか きっとどうでもいいよ
ああそうだ ドラム罐を雨がたたいて
やかましいんだね
やかましいんだよな
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