ノロマな深海魚
小野カオル

穴のような家に一日潜んでから
日が暮れて
空気を吸いに外に出る

あてもなく街を歩き
喫茶店と本屋をはしごして
何をしたいということもない

そうして雨に降られて
人気の無い大通りをなぞって
家に辿り着く

一日の長い時間を寝床ですごし
酒を呑み
無為に流れてゆく日々

人づきあいの
わずらわしさもなく
つくった顔の
うそ臭さもなく

明日のことも知れず
誰にもかまわれず

いつしか
世の人の海は溶けて透明になり
わたしは深海をたゆたう
魚になった

孤独にも安らぐ
ノロマな魚になった


自由詩 ノロマな深海魚 Copyright 小野カオル 2008-10-01 00:42:01
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