時と音
木立 悟
水のそばに
水の羽があり
四つの水を映している
ひとつだけ蒼い波が来る
ふいにひろがり すぐに消え
ふたたびふたたびをくりかえす
窓に打ち寄せ
つもる影
屋根のつらなりのむこうを見つめる
何かを作るために
家は取りはらわれた
何かが 作られることはなかった
朽ちた野に
浪の音が到く
むらさきにわたる
銀の暮れ色に手をひたし
昇る小さな水の音
ふせるまぶたの音たちを見る
小さく息をのむ
むずがゆく笑む
甲に まなざしを浴びる
手のひらは手のひらを経て
たしなめられるように手のひらになる
花の上の 音の花を聴く
火 硝子 火 硝子
常に火の前に立ちはだかる
硝子の声 硝子の声
左目は弱い
ふせてもまぶしい
重さのない指の重なり
滴を照らす火
壁鳴らす色
手のひらの上に揺れる鉱
影は流れ 窓はひらく
つらなりの前の左目
歳月があり 歳月に眠る
夢のなかで種ははじける
音のない朝のまぶたに
まなざしと花は訪れる