時と音
木立 悟




水のそばに
水の羽があり
四つの水を映している

ひとつだけ蒼い波が来る
ふいにひろがり すぐに消え
ふたたびふたたびをくりかえす

窓に打ち寄せ
つもる影
屋根のつらなりのむこうを見つめる

何かを作るために
家は取りはらわれた
何かが 作られることはなかった

朽ちた野に
浪の音が到く
むらさきにわたる

銀の暮れ色に手をひたし
昇る小さな水の音
ふせるまぶたの音たちを見る

小さく息をのむ
むずがゆく笑む
甲に まなざしを浴びる

手のひらは手のひらを経て
たしなめられるように手のひらになる
花の上の 音の花を聴く

火 硝子 火 硝子
常に火の前に立ちはだかる
硝子の声 硝子の声

左目は弱い
ふせてもまぶしい
重さのない指の重なり

滴を照らす火
壁鳴らす色
手のひらの上に揺れる鉱

影は流れ 窓はひらく
つらなりの前の左目
歳月があり 歳月に眠る

夢のなかで種ははじける
音のない朝のまぶたに
まなざしと花は訪れる





















自由詩 時と音 Copyright 木立 悟 2008-09-30 19:11:28
notebook Home 戻る