さよ
かのこ

ゆっくりと立ち昇っていく煙草の煙を
いち、に、さん、し、と雨が打ち消して
季節外れの、風鈴の音が聞こえる
りん、りん、猫が顔を洗っている

頭の中で
ろいやるみるくてぃーが
湯気をたてて
白くけぶって
記憶はいつもそんな感じ

やわらかな仕草で
手のひらを額のうえに
銀のスプーンでお皿を叩き鳴らして
呼んでくれた

今は宙ぶらりんで
ベランダから眺めている
物干し竿から垂れ落ちる、しずくに
思わず触れてしまいそうになって、いつも

雨雲のおかげで
ずっと続きそうな
暗い夜が
少しやさしいようで

ねぇ、たぶんずっと
言葉を交わすことは、ぼくには難しいから
風が吹けば風鈴の音、首を振れば首輪の鈴
いつだって時間のながれを
ぼくに教えてくれる
あたたかかった体温はうばわれる
しずくをまた、ひとつ、落としてしまう


自由詩 さよ Copyright かのこ 2008-09-30 05:28:56
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