林檎と私
石瀬琳々
この手の林檎が可愛いので
少し齧ってみる
この手の林檎が可愛いので
もう少し齧ってみる
この酸味はもう秋なのね
喉元に風が吹き過ぎて
秋はどこからやって来るの
秋は私の心から
心にもない言葉を言ってから
心にもない言葉を口にしてから
胸の奥がつんとして仕方がないの
それから何にも言えなくなって
(林檎よ お前は知っている?)
青い空に浮かぶ雲が流れた時
淋しい歌をそっと口ずさんだ時
林檎の青い香りを嗅いだ時
瞳に映るあなたが見えた時
そして 枝を揺するこの風
私の髪をさらってゆくこの風
(冷たい林檎の手触り!)
風、風が私を追い越して行ったあと
振り向くとそこに秋がある
林檎を放り投げて
受け止めるこの心にも