秋桜飛行場
雨傘
シーツは空気を切る音を響かせながら秋空にひろがった。
わたしはそれを物干し竿にかけ、
丁寧に皺を伸ばした。
子ども達は一面に広がる秋桜畑で笑い声を上げている。
家の中からはラジオの音が漏れていた。
夫が荷造りをしながら聞いているものだ。
そう、この家に住みたいと言ったとき、母は心底嫌そうな顔をした。
名義上はわたしのものだが、近いうちに売ることが分かっている土地である。
すぐに売ってお金にすることを母は強く勧めた。
でも、職場を失い、社宅を追い出されたわたしたち家族にとって、
朽ちかけた懐かしい家に住むことの方がちょうどいい選択のように思えた。
新しい家を建て、新しい生活をする気力の蓄えが枯れていたからだ。
そうして、わたしたち家族はこの場所(わたしの生まれた家)に住み始めた。
近所の人は次々に立ち退いていき、並んでいた家は日を追うごとに取り壊されていった。
とうとう、我が家が更地の一軒家になったとき、
砂埃の舞う殺風景なこの土地を、秋桜畑にしようと思いついた。
花が咲いたらこの場所を去ろう、と。
早速、わたしは夫と子供達に種を蒔くことを提案した。
上の子は目が輝かせながら、「お花畑が飛行機から見えるようにしようよ」と言った。
わたしは娘の提案があんまり可愛いので、抱き寄せて頭を撫でた。
―もちろん飛行場ができるときには、花畑もつぶされてしまうんだけどー
正面に座った夫は、決意したようにゆっくり頷いた。
わたしは洗濯籠を抱え、空を仰いだ。
よく晴れている。
このシーツが乾いたら、わたしたちはここから出発する。