バス停
小川 葉
こころが風邪をひくと
遠いどこかへ行きたくなる
誰かとバスを
待ちたい気持ちになる
まだ幼かった
あの日の僕と母のように
むかえに来たのが
バスではなかったとしても
見知らぬ男の車に乗り
気軽に世間話して
親しげに
それではこのへんで
と言って降りて
すぐに母が
あのひと知ってる?
と耳元でささやくので
男の車に頭をさげたまま
目を合わせて
たのしかったね
こわかったね
と二人して笑った
風邪はすこし良くなった
けれども母は
まだ鼻水がとまらないので
僕らはまたあたらしい
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