私の声が聞こえますか
涙(ルイ)
仕事はじめたはいいけどさ
毎日4時間じゃ生活の足しにも何にもなりゃしないんだよ
それじゃ8時間働けばいいでしょって思ったそこのあなた
そうですそうですおっしゃるとおりです
それができるのならとっくにそうしてるんだけどさ
慣れない仕事でクッタクタでも
夜になってベッドにもぐりこむと決まって
気がめいってめいって眠れないのよ
生きるのがしんどくてしんどくて
どうするどうするどうすりゃいいの
線路に飛び込んでしまえばいいかとか
高層ビルから飛び降りてしまえば楽かとか
いっそのこと 樹海に入り込んでしまおうかとか
そんなことばかり考えるのだけれども
やっぱり車輪に踏みつけられたら痛いだろうなとか
そういえば高所恐怖症で下を見るだけでくらくらしちゃうよなとか
寒いのも空腹にも耐えられないだろうなとか
なんだかんだ云って やっぱり死ぬのがおっかなくて
今日明日と延ばし延ばししてしまっているのです
こんなこと誰にも相談できないし
第一聞いてくれる相手もいないので
自分の中で ああだのこうだのと
悶々とするより他になくて
なんかそういうのもう
ほとほと疲れちゃったよ
どうせ誰も私のことなんか必要としてないし
第一 生まれてきたこと自体
疎まれているんだから
きっと死んでも誰も泣いたりしないんだろうな
別にそれでもいいけどさ
嘘っぽい涙なんて
こっちから願い下げだし
死んだあとから
「あの子はね……」なんて語られても
全然うれしくもなんともないし
それよりさっきから自分の愚痴ばっかり聞かせてるけど
いい加減にしてくれないかな
あなたの口からついて出てくるひと言ひと言が
私のやわな心をグサグサ突き刺すんだ
ねえ どうしてそんなひどい言葉を
平気で口にできるの
そんなに私が憎いの
あなたが苦労して生きてきたことは
わかりすぎるくらいわかってるつもりだよ
あなたの父親もろくなやつじゃなかったってことや
兄弟との折り合いがあんまりよくなかったってこと
あの男との結婚だって
勝手に決められたってこと
毎日毎日子守唄のように聞かされてきたんだから
そのくらいは嫌というくらいわかってるつもりでいるよ
だから私は だから私は
あなたになるべく負担をかけちゃいけないって
だから泣くこともしなかったし
わがままだって云わなかった
そんなことを云ったら
あなたは私のそばからいなくなってしまうだろうって
それが怖かったから
ねえ 教えてよ
そんなに私が憎いですか
あの男にそっくりだからですか
あなたを苦しめてきた
おばあさんにそっくりだからですか
だけどそんなこと
私にはどうすることもできないじゃないですか
間違っていてくれたらどんなにいいだろうかって
何度も何度も何度も何度も
そう思ってきたけれども
どうやら間違いなく私は
あなたとあの男の間に出来てしまった子供なのですから
あなたはことあるごとに云いましたね
「勝手についてきたくせに」
「なんで一緒にいるんだよ」
「嫌ならあの男のところへ行ってしまえ」
いらいらしてつい云ってしまったそうですね
本当にそうでしょうか
ついでそんなひどいことが云えるのなら
本気で云われたら
きっと私は
この世に生きていることさえ出来なくなってしまうでしょうね
あなたは想像してくれたことがあるのですか
あの夜のことを
あなたが安全な場所で食べたり飲んだり
笑ってしゃべっているころ
私たちがどんな目にあっていたか
自分がいなかったらどんなことになるか
ほんの少しでも考えてはくれなかったのですか
それとも何ですか
私たちはどんなにひどい目にあっても
じっと耐えていろと
そう云いたいのですか
私はあの夜 本気であの男を殺してやろうかと思った
痛くて悲しくて悔しくて悔しくて
もうこんな思いはたくさんだと
なにもかも終わりにしてしまえば
どんなにいいか
本気でそう思ったことを
あの夜 4月だといってもまだ肌寒い
月も出ていない真夜中の道を
私がどんな思いでさまよっていたか
少しでも想像してくれたことがあるのですか
暗い川面を見つめながら
いっそ飛び込んでしまおうって
そう思ったことを
あなたはきっと
そんなことは考えてくれたこともないのでしょうね
家を出るって決めた時だって
あなた云いましたよね
「あんたはあの家に戻れ」って
私は一瞬 自分の耳を疑いましたよ
小さいころからずっとずっと我慢し続けて
わがままひとつさ云わずにずっとずっと
あなたの味方でいたつもりだったのに
そんなときだって
私を抱きしめてはくれなかった
もういいよ もういいですよ
あなたが私に対して
一縷のしずくほども愛を抱いていないことは
最初からなんとなくわかっていました
でも それを知ってしまうのが怖かったから
いままでずっと何も云うことができなかったけど
もう もう
いい加減にしてください
あなたの愚痴なんか
もううんざりだ
あなたがしゃべればしゃべるほど
あの言葉がナイフのように
私の心をぐしゃぐしゃにつぶしていく
ずっとずっと
あなたを好きにならなきゃいけないような
そうしないとなんだか罪を犯してしまっているような
そんな気がしてずっとずっと怖かったけど
はっきりわかりました
私は あなたがキライです