雨の桜
渡邉建志

冷たいお堀の水の上に 
桜の花びらが落ちていく
無音


しとしと
これは雨


影に
とじこめられる


鬱蒼と茂る木々のあいだに
用水路が流れている


ベンチに坐ったあなたは
下のほうに咲いた
まだ五部咲きの花びらを
とってしまって
あかい唇を重ねた


しとしと
これも雨


皇居の横を通り抜ける高速道路や桜の下をくぐるトンネルや車や地下鉄や飛行機や
たくさんの
人工物の層のなか桜が咲いていてその並んでいる桜のはなびらたちにすべて
あなたのくちびるが触れ、、るために飛んでいくたくさんの
あなたのくちびるたち!あなたのくちびるたち!
雨の下の木々はたくさんのあなたのくちびるを咲かせて外堀の水に浮かび敷き詰め
られたたくさんのあなたの瞳がいっせいに私を見つめその瞳の回転に乗せられた笹
舟たちが私の橋の下にやってきたその無数の小さな疾走!



自由詩 雨の桜 Copyright 渡邉建志 2008-09-27 03:18:00
notebook Home 戻る