真夜中にダンクシュート
木屋 亞万

ラブホテルとカプセルホテルの間に空き地
緑色の針金フェンスが建てられ
雑草除けのコンクリートが敷かれた
そのうち
フェンスは壊され誰かがバスケットゴールを持ってきた
もはや人種職種を判断しかねる日焼けした労働者たちが昼夜問わずバスケをし始めた

掃除婦のおばさん、鳶職の若者、ホームレスのおじさん、
ヤンキー少年、家出娘、スーツ姿の酔っ払いまで
ボールに群がりリングを目指した

僕が生まれたとき学校はすでに
学年で仕切られ、社会は同い年の群ればかり生産していた
部活動を始めたとき群れの幅は3年にまで広がったが
無駄に威張るだけのやつが増えただけだった
顧問も漫画と解説書でしかバスケを知らないモヤシ教師だったので
部活はすぐに崩壊

バスケがしたい
ドリブルをして
パスをつないで
全力で止めに来る敵を交わして
シュート。
それさえできるならば、筋トレでも掃除でも付随するものも我慢できるのに
苦しみもないかわりに、青い心が渇望する情熱の類の一切を得られなかった

走りたかった、叫びたかった、ボールを操りたかった、人が恋しかった
学校終わりの4時過ぎに通りがかった街の外れ
ラブとカプセルの隙間に青春があった
学生鞄を放り投げ
上着を脱ぎ捨てて
カッターシャツの袖をまくり
参戦した

ドリブルの腰まで低いサラリーマン
シュートの軌道と鼻のラインが綺麗な家出女子高生
ボールと空き缶を拾うのが上手いホームレスのおじさん
動きに無駄がないけど服は派手な鳶職の兄貴
みんな上手かった
さりげないプライドを持ち
誰も偉そうに教えたりしない
互いのプレーを眺めては技を盗もうと目を光らせ、こっそり真似ていく中で互いの強さをより実感した

いつ行っても同じメンバーになることがない
総勢で何人いるのか、思えば人はたくさんいるものなんだ
毎日顔を出すうちに住人と呼ばれるようになった
相変わらず上手くはならないが
見様見真似で少しずつ技術を身につけた
色んな年の人と話した、色んな仕事の愚痴も自慢も聞いた、色んな過去を垣間見た。

僕が中学3年になったときに、親と進路の話で揉めた
「親は普通科に行け」と言った
自分の成績で安全圏には入っている学区でも優秀な進学校
そして、「学校をサボってバスケに行くのをやめろ」と言った
弁当を食べた後、こっそり学校を抜け出して昼からずっとバスケをしていたのが担任からの連絡でバレたらしい
あまり家にも帰っていなかったし
両親ともほとんど家にいないので
久しぶりに家族が顔を合わせたのに激しいけんかになった。

夜の2時を回っていた
ヤンキーやバイク乗りの兄さんたちが
こんもりとした筋肉タンクトップでダンクを決めていた
コンクリートブロックに座っていたホームレスのおじさんに愚痴をこぼした

普通科なんか行きたくない
学年の檻から早く抜け出したい
やっと義務教育が終わるのに、どうしてまだ学校に行かなくてはならないんだ
と言うと、
おじさんは珍しく声を出して笑った後、目の端に涙を溜めて「帰れ」と言った

それでも僕がそこにいると
「お前が帰らんなら、私が帰る」とおじさんの家は目の前なのに、
バスケをしている人たちに声をかけ、どこかに行ってしまった
試合が一つ終わると、いかつい兄さん達もあっさりと帰ってしまって、独りになった
始めてここで、一人
多分待っても誰も来ない
寝そべると空に、満月
月しかない
明るすぎる電灯の下
バスケットボールを拾い上げ
さっきの兄さん達の見様見真似で
思い切りダンクした

 夜が明けて、帰ろうとする僕の背中に、
「また来いよ」と声が聞こえた
かっこ悪くうなずいた後、また歩き出した


自由詩 真夜中にダンクシュート Copyright 木屋 亞万 2008-09-27 01:00:46
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